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末原拓馬さんの紡ぎ出す、美しくて、儚くて切なく、仄かに悲しくて、最後に必ず一筋の柔らかな明るさを宿した言葉と物語がとても愛しくて好きだ。

「巨大ナメクジは大海原を目指す」という短編の物語は、水溜まりで満足していたナメクジが、池を知り、湖を知り、一等大きな海があることを知り、海を見たくて見たくて、長い年月をかけて海を目指すうちに、小さかったナメクジが巨大なナメクジに姿が変わり、海にたどり着くまでの物語。

ただただ、大きな海を見たくて巨大化しつつも海を目指すナメクジは、巨大な体にこどもの好奇心だけを持ち続け、やさしくてのんびりした性格が愛らしい。塩に触れると溶けてしまうナメクジは、海に触れたら溶けてしまうのを知っていながら、海にたどり着き、海を見て、海を知ったことで満足して、海に入り海に溶けて行く。

その情景を思い浮かべると、胸がきゅっとなって、ホロッとする。

端からみると、最後に海に溶けてしまう巨大ナメクジは、悲しくて切なく見えるのかも知れないけれど、ナメクジ自身はきっと見たかった海を見られ、その海に溶けて海とひとつになれて、きっと幸せだったのだと思う。

この物語の他にも、いくつかの物語や詩と言葉が紡がれた。様々な色彩と香りを纏った言葉が、空を漂い、様々な色彩とかたち、手触りの物語が織り上げられて行く。その瞬間を目の当たりにする至福。

末原拓馬さんの紡ぎ出す、美しくて、儚くて切なく、仄かに悲しくて、最後に必ず一筋の柔らかな明るさを宿した言葉と物語がとても愛しくて好きだ。

毎月恒例となったアリフミさんの前説が、いつもほんわかとして楽しい。役者さんではなく、普通の人なのに話すことが、そのまま物語になるような、面白いお話をされるアリフミさんの前説を聞くのも密かな楽しみ。

笑って、引き込まれて、やっぱりホロリと泣いて、最後は笑う素敵な空間と時間。

そしてまた、私の中にも物語と言葉の欠片が降ってきた。

末原拓馬さんの「ひとりじゃできねぇもん」は、五感の全てと心が蠢き、震えて、温かく包まれる場所。

文:麻美 雪


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